2008年_09

時間の遅れとはいえ、同日中に目的地、プーリアに到着しました。

ここではオリーブオイルの生産者、Antonio RAGUSO:アントニオ・ラグーソ
が迎えに来てくれていました。

シチリアのオリーブ収穫時期よりもプーリアのそれはやや時期が遅いようで、
丁度、収穫→搾油の真っ最中という事で大忙しの中を来てくれたのです。

イタリアを訪ねる場合、出来れば収穫や製造時期の“旬”に合わせて来るのが
ベストかもしれませんが、その分、私とゆっくり話をする時間も無いわけで、
そういう私もいつでも自由にイタリアに来れるわけではない・・・
という事もあって、結局、その場で出来る最大限の事をするしかないです。

今回は丁度収穫時期だったので、
“オリーブ畑に入って収穫の場を写真に収めよう”
という意気込みがあったのですが、運悪く天候は雨。
しかもかなり寒かったのです。

やはりこういう時はむやみに収穫しても良い状態のオイルを絞るのには
適さないわけで、彼用の畑での収穫は見送られていました。

とはいっても、彼は自分だけのオイルを絞っているわけではなく、先にも書いた
シチリアのBICENOの所と同じくFrantoio:フラントイオ(搾油所)ですから、
彼のところへオイルを絞ってもらおうと雨にも関わらず収穫したオリーブを持ち込む
人達が後を絶ちませんでした。

そうした人達は別に仕事を持っていたりして、オリーブは自家用のオイルを絞るため
に持ち込むのです。
丁度、週末だったこともあり、仕事の休みの日を利用して収穫するといったスタイルを
取る人達でフラントイオはまさに大忙しとなるのです。

もう一家総出で、ひっきりなしに運び込まれるオリーブを前に昼夜を問わずフル操業
といったところです。

なので、搾油所にはしっかりと居住スペースがあり、そこで寝泊りしながら仕事をするそうです。
仕事の流れとしては

・持ち込まれた各人のオリーブを所定のかご(250Kg入り)にいれ
・はかりに載せて重量を量り
・持ち込んだ人の名前とかごのNo.を控えに記載して渡す
・後日、控えをもとに各々が搾油のタイミングにあわせて再訪し
持ち込んだステンレス缶(55リットル)につめ、持ち帰る
※状態により前後しますが搾油できる割合は13~18%あたりだそうです。

という事を延々と早朝から夜中まで繰り返すのです。
なので、

「コウジ、良く来たね!でもこの通りの大忙しだから粗相を悪く思わないでくれよ。」

と、私と話している間もとぎれとぎれに、重量を測ったり伝票書いたり
あるいはフォークリフトに乗ってかごを何層にも積んでいったりと
それはそれは忙しい風でした。

何て事で、私こそこんな時期にお邪魔して申し訳ない気分で一杯になったくらいです。
なので私がカメラをぶら下げてフラフラ歩いてたりなんかしたら、
それこそフォークリフトに轢かれてしまいそうな雰囲気でしたから、
やっぱり気がとがめて撮影を断念しました。

さて、こうして絞られたオイルは殆どは各家庭で使われます。
事実、私がシチリアに暮らしていた頃も、お世話になっていた家庭にはオリーブ畑が
ありましたが、彼らは学校の先生として働いていたわけで、週末にこんな風にオリーブを
収穫してはフラントイオに持っていって絞ってもらっていたのでした。

家庭で使う場合にそこまで拘らなければ

・持って行ってから絞るまで2,3日かかっても気にしないし
・オリーブの実を潰してペースト状にする際に使う水の温度を上げて搾油量を増やしたほうが良い

と考えるのはごく普通の事かもしれません。
でも、長いオリーブオイルの歴史の中で生まれていった高品質への追求においては、この点において

・収穫から24時間以内の搾油 や
・水温を一定以上に上げない(コールドプレス) 

といった手法を用いるようになってきた中にあっては、やはり出来てくるものの、
質の差といったものが大きくなったといえるでしょう。
すでにエクストラヴァージンというオイルのカテゴリの中で最上にあっても“さらに”を
目指した彼らの最善策の一つだと思います。

PIATTIで扱う、シチリアのBICENOやこのプーリアのGoccio d'Oroの両方とも、
すでに一般的に言われるエクストラヴァージンたるための決まりごとは軽くクリアし、
ここに書いた2点もあたかも当然のように取り入れています。

それは、結果として感じる香りや味わい、そして何よりも本当に純粋なものの持つ
自然な食品としての生命力にあると思います。
生命力なんて、とても抽象的ですが、食べ物の力強さを感じるとき、
それは旨いとか不味いとかそういうところよりも何か根本的な説得力のある部分ではないかと感じています。

オリーブオイルで言えば例えば酸度の問題がありますが、生命力が強ければ
酸化に対しても強い・・・とかそんな感じですね。

それは決して数値では表しきれないから難しいのですが、世の中に数多ある
“科学的に酸度を低くしたもの”とはやはり違うであろう、というか違っていてほしいと願う部分です。

それは、結局どんな姿勢でものをつくっているかを目の当たりにしないと
見えてこないものかもしれません。
もう何というか、データなんてどうでも出来てしまう時代ですから。

だからこそ、小さくても全うな作り手達を直接訪ねるからこそ見えてくる
L'intraccibilita:トレーサビリティ や、感じ取れる本物の説得力といったものは、
ごまかす事の出来ないものと信じています。

寒く雨の振る中、搾油所に併設された事務所で延々と足掛け二日の間に私がした事といえば
生産者アントニオと延々と話すことしかありませんでした。
一体何時間話したか定かではありませんが、その中で日本もイタリアも今では食にまつわる
問題は同時進行でもしているのかと思えるほどの共通項の多さに改めて驚きました。

この文章を書き終えるまでに何行書いては消したかわかりません。
書いてよいやら考えあぐねて書くのをやめた事が数多くありました。

その結果が、ちょっと見苦しい段落のつなぎ方だったり、抽象的な表現に留まったりしたことに
自分の至らなさを感じています。
でもやはり私が出来ることといえば、それぞれの作り手を数多く訪ねて見て話して食べて、
を繰り返すしかなく、またそれを言葉や試食を通じて少しずつ広めていくしかないわけです。

それが決して遠吠えとならぬよう、存在し続けることの大切さも改めて思い直しました。
頭がぐるぐる廻って気がどうにかなりそうでした。
やはりたった2日のプーリア滞在は短かすぎた間がありましたが、またの機会としました。
天気は雨続き、珍しく寒さ続きだった南イタリアとここでお別れし、
また朝一番のアリタリアに乗って北イタリアへ飛びます。

次はトリノです。
3度目の正直、今回の旅の山場が待っています。

続く。