2012年_03


San Nicola社訪問

 

今回の旅の最初の訪問先は Prosciuttificio San Nicola。
PIATTIでも大定番のパルマ産生ハムの生産者、サン・ニコラ社です。

直輸入ではないけれどこれほど直接のやり取りを繰り返している生産者も少ない、
ちょっと変わった関係です。

彼らがわざわざ選んでくれたハム原木の一本一本の異なる味わいをあれこれインプレッションとして書留め、
これを彼らに渡しています。

生産者としてはスライスしたハムの味わいまでは確認できないので、
有益な資料として捉えてくれているようです。


 

今回はそんな味のやり取りも当然行いましたが、少しハムの歴史というか切り方、
スライスの仕方について聞いてみたかったことがありました。

 

「ハムは手切りかスライサーか?」

 

私自身はスライサーで薄くシュッとスライスしたものを良しとしていますが、
そもそも諸説あることそのものに漠然とした疑問符が浮かび上がっていたのです。

手切りを良しとする理由の中には、スライサーの回転刃による摩擦熱がハムに悪影響を与えるから
昔ながらの手切りのほうが良いのだ、的な話もあり、ホントにそうなのかなぁと思っていたのです。

そのあたりをそのままぶつけてみると、

 

「現代ではスライサーで薄くシュッとスライスするのが一番さ。」

 

と明快な返答。その背景として

 

「確かに塩漬けの干し肉としての生ハムは大昔からあったし、その頃にスライサーなんて無かった。
だから、骨のついたそのままをナイフで削ぐように切るしかなかったんだ。
でもスライサーが登場し、ハムも厚みのある大型で柔らかな肉質となり、
かつ薄塩が好まれるようになった事でいよいよ薄くスライスするものが美味しいとされるようになったきたんだ。
それだって、ここ数十年の話だよ。」

 

とさらに。
なるほどと納得。
イタリアを知れば知るほど、ほんの数十年前まであった暗い過去の歴史を感じざるを得ませんが、
故にその後の現代への変貌を見ると、食の文化にも大きな変換点があったのかもしれません。

 

ただ生きるために保存食を食べていた時代から、美味しい物を楽しむ時代へ少しずつ変わったのかもしれないと。

また、

 

「スライサーの摩擦熱だって?そんなもん、同じ断面をネチネチ切ってるわけじゃないだろう?

シュッと切ればいいんだよ、シュッと!」

 

とこれまたあっさり一蹴。
それから、

 

「どうだ、この薄くスライスしたハムを口に運んだ時の味や香は!口の中で溶けるようだろう!?」




 

この“口の中で溶ける”:sciogliere in bocca ショリエレ・イン・ボッカというフレーズは
この旅でもこれから時折耳にすることになるいわば、ハムを楽しむ時の賛美の言葉でもあるのだと
後々知ることになりました。

現代イタリアの生きた現場そのものを感じることによって、過去に見聞きした古い情報を
更新していくことの重要性、大切さを深く感じた次第です。

そして、

 

「コウジ、ハムはなぁ、難しいものなんだ。決して一言では言い表せない。」

工場長のLuca:ルカがそう話すとやはり相当の説得力があります。
さんざんと細かな説明をしてくれた上でのこの言葉に深く頷くよりほかなく、
だからこそ売り手(切り手)に託される部分も相当にあるなと感じます。
元が良くても扱いが下手なら元も子もないですからね。



短い時間でしたがやっぱり来れば来るほど勉強になるものだと改めて深く認識した貴重な訪問でした。



あれこれ話して試食も繰り返し、彼らのメッセージをちょっとした動画に収めることが出来ましたので
どうぞ御覧ください。

 

それから一路 Modenaへとひた走りました。
昨年冬にブレイクしたパネットーネの生産者を訪問しに参ります。

 

続く。